11/4より開催の〈ゆらすかおり展〉にむけて。
関口真大『匂い・香り・禅』より
香料や香辛料はほとんどみな東洋の特産物であった。豊富な香木、香花、香果に恵まれた条件を持った東洋では昔からそれらが大いに利用された。三千年の昔より、神秘な儀礼にも日常の飲食物にも、異性に対する魅力のためにも、(中略)種々の匂いが利用され、やがて匂いの芸術が成立するほどまでに匂いの文化が発達した。
東洋の神話では、匂いの精が美の神や音楽の神として活躍する。また人間の生命を奪う怖ろしい悪神としても活躍している。
匂いは一説には約40万種あるとされる。そして科学的、学術的に分類し、系統だてるのが難しい。
匂いは、味覚や触覚よりも心の奥を揺さぶる。匂いは理性(大脳新皮質)を経ずに、情動・本能・記憶を司る大脳辺縁系に直接伝達される。そのため嗅覚は、他の視覚、聴覚、触覚、味覚と違い、直接本能に作用する。
匂いは濃度によって質そのものが変化する。糞便の匂いであるスカトールが希薄になるとジャスミンやオレンジのような花香を放つ。
香料を大量に使用する化粧品。香水はいわずもがな、せっけん、歯磨き粉、洗剤、入浴剤など、商品の売れ行きは香りによって大きく左右される。お茶やコーヒー・紅茶などの飲料でも匂いは重要な要素だ。また酒類においてもその商品価値を決めているのは匂いである。
香料を使用する諸産業により、合成香料が発達してきた。合成香料は天然香料の主要成分のみを真似する。天然香料は、主成分のほかに、実はいろいろな成分が複雑に組み合わされている。だからそれらの合成香料をどれほど巧妙に混ぜ合わせても、天然の香料の発する匂いは得られない。人工品には、いつも大事な何かがかけている。
美しい匂いは心の奥にまで沁み渡り、妖しい匂いは身も心を蕩かす。この妖しく美しい匂いから人類は2つの芸術を作った。一つは西洋の香水、もう一つは日本の香道である。
匂いは人間の持つ感覚のうちで、下劣なものから高尚なものまで、もっとも幅広い範囲をカバーする。食欲・性欲に直接に作用する匂いから、神仏に捧げるものとしての香りまで、およそ人の文化史の全範囲において、匂いは人に作用してきた。
香道は、香りによって心を清め、人間の品性を高尚なものに高めようという幽玄の世界である。
平安期、日本人は匂いに対する優れたセンスを発揮させ、薫物といわれるものを発達させた。薫物は粉末にした香原料にはちみつをまぜて練り合わせた練香である。貴族はめいめい自分の調合をつくり、そのレシピは家伝として秘密にした。ときにはそれを持ち寄り、優劣を競い合う薫物合わせという競技も行った。練香はのちに茶の湯でも使われるようになった。
法華経における香りの描写を見よ。