11/4(土)より、〈ゆらすかおり展〉を開催します。創香家である今井麻美子さんをお迎えし、離岸限定のオリジナルの線香、練香、匂い袋、離岸特製香立てなどを展示販売します。
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香りの作家というのは大変珍しく、少なくとも日本では、今井さんのような活動をされている方は類例がないと思われます。
僕も今井麻美子さんに出会うまでは、香りについて深く考えたことは無く、しかしひとたび実際に今井さんの調合・精製した香りを体験すると、その繊細にして豊穣な世界にたちまち魅了されました。
今井麻美子のつくる香り〈ゆらすかおり〉は、100%天然の原料だけで作られ、化学的な香料は一切使用しません。そのため、その香りはとてもやさしく、僕がこれまでに知っていた香りとは全然違いました。(いわゆる「老舗」とされる香木店などの線香も、実は天然の原料に混じって合成香料がしようされているようです。線香など、直接人体につけない香は「雑品」扱いとなり、原材料などの表示義務が無いため、何が使われているか、通常わかりません。)
〈ゆらすかおり〉はとてもやさしくふんわりと包み込むように香ります。尖ったところがなく、強烈に臭うということもなく、焚き終わるとすっと消えていく。もののけ姫のコダマのように、繊細な、精霊のような存在です。
線香を吸い込んだときにむせる感じになったり、「うっ」となるのは当たり前というか、そういうものだと思っていましたが、〈ゆらすかおり〉を知ると、それは間違っていたことに気づきます。だって〈ゆらすかおり〉はそうなりませんから。(試しに今この原稿を書きつつ、とある老舗の香をたいてみましたが、もう、話になりません。僕はもう普通の市販の香に戻れない体になってしまいました。でも日本でほぼ100パーセントがこのような香りなのですから、僕はどこでこれらの香りに遭遇しても口を噤むよりほかありません。茶席で香をディスるわけにもいきませんから。)
合成香料が悪であるとは言いません。それは安定した生産と一貫した品質管理を可能にし、かつ相対的に安価に提供できる商品をつくるのに欠かせないでしょう。逆に言えば、自然の原料だけでつくることには大量に作れない、香りを一定にするのが難しい、訓練された嗅覚が必要など、生産上の困難がいくつもあり、それが今井麻美子が稀有であることの理由にもなっています。
しかし香りを文化として捉えた場合、合成香料のにせもの感はいかんともし難いものです。自然の原料だけで作られた〈ゆらすかおり〉に嫌な感じは一切ありません。香の好みはあるにせよ。簡単にいうと香料の入ったお菓子と、普通の食事の香りの差です。合成甘味料などは後味がひどいですが、香りも一緒です。合成香料の入ったものはきつい嫌な香りが、空間にまとわり付くような感じで残り、大層気分が悪いです。
しかし、不思議なものです。僕も〈ゆらすかおり〉に出会うまでは、なんの疑問もなく、市販の香を焚いて、「やあ、いい感じの雰囲気つくったなあ俺」などと思っておりました。香を焚く、なんとなくいい感じである、みたいな非常に安直かつ愚鈍な感性・嗅覚でした。それが、〈ゆらすかおり〉によって気づかぬ間にトレーニングされた僕の嗅覚は今や、かつての自分の蒙昧をばっさりと断罪します。
知らないほうが幸せなこともあります。まして、ほとんど知る術の無い香りについて、偽物で満足することを馬鹿にすることは誰にも出来ないでしょう。しかし、この文章を読み、香りの「別の可能性」を知ってしまった諸兄は、もはや半分「知っている人間」なのです。あとは会期中に離岸にお越しいただき、知ってほしいのです、この繊細で豊穣な世界を。そうして、この香りの「別の可能性」を知る人間が増えれば、今井麻美子さんのような作家が増えていくかもしれません。またいつか老舗も、新たなブランドを立ち上げるかもしれません。今井さんに並ぶ者のいない世界は、今井さんにとってはある意味良い面もあるでしょうが(ブルーオーシャン!しかし、現実はもちろんそんなイージーではありませんね。)、私達にとっては喜ばしいことではありません。客が店を育てるように、わたしたちはまず〈ゆらすかおり〉によって嗅覚を訓練し、そして厳しい消費者になっていくのです。そうなれば私達はもっといい香りのする世界へ、この世界を作り変えていくことができるのです。
かつて貴族や武家は、自分だけの香りを調合し、それらをあるいは秘伝にし、あるいはお互いに自慢したり、競い合い、その先に香道という世界でも稀な香りの芸術が生まれました。のちに茶の湯はその文化を取り入れ、一層みずからを芳醇なものとしていきます。平安時代より連綿と続く日本の香文化。その最先端にして異端にして正統の伝道師・今井麻美子の世界を、ぜひご堪能ください。
会期最初の土日には、今井さんを講師にお招きし、ワークショップを行います。こちらもふるってご参加ください!
〈ゆらすかおり展〉〜香りと遊ぶ 創香 今井麻美子〜
- 会期:2023.11.4土曜日から11.19日曜日 11:00-17:00 注)会期中の火曜・水曜はお休みです。
- 会場:離岸
- 内容:離岸オリジナルの線香、練香、匂い袋の展示販売、〈ゆらすかおり〉作品の展示販売、離岸オリジナルの香立て&香台の展示販売など。
- 作家在廊日:11.4, 11.5
- 関連イベント:「自分だけの香りをつくるワークショップ」
- 日時:11.4土曜, 11.5日曜
- スケジュール:[ 11.4土曜 ] 11:00-13:00 線香作りワークショップ、14:30-16:30 練香作りワークショップ、[ 11.5日曜 ] 11:00-13:00 線香作りワークショップ、14:30-16:30 練香作りワークショップ
- 講師:今井麻美子(〈ゆらすかおり〉)
- 内容:作りたい香りのイメージを今井さんに伝えると、今井さんがオリジナルの調合してくれます。自分だけの、オリジナルな香りがつくれるすごーいワークショップです。
- 参加費:線香WSは7,700円。練香WSは9,900円。ともに材料費込み。作った香はお持ち帰りいただけます。また使い切ったら注文も可能です。
- 定員:各回5名
- 参加ご希望の方はホームページ内「問い合わせ」フォームもしくはインスタDMなどで受け付けます。
- 作家プロフィール:今井麻美子 香りを創ることはイメージを五感で感じ表現する一つのアートと考え、2008年より百貨店出展、講座、イベントなど国内外を問わず様々な活動をしている。また、近年増えてきているコンサートやイベントなどでの香りの演出の先駆者でもある。最近の制作作品には『暁のヨナ』(草凪みずほ/白泉社)の花とゆめ本誌プレゼントやソーシャルゲーム『Alice CLoset』『なむあみだ仏っ!』の公式グッズ制作など、漫画やゲームのキャラクターを和の香りで表現。香と音ASHITA・日月香では、使う側が体感し、自由に表現できる今までにないアートとしての香りを制作したり、形のない香りだからこそ出来る新しい香りの表現であり体験する人がいて初めて成立するインスタレーションアートでもある「交香感」を世田谷美術館分館清川泰次記念ギャラリーにて開催するなど、伝統であり日常である和の香りの既存に囚われない新しい可能性を大きく広げている。 →作家ホームページ