縄文時代から連綿と続く漆芸の歴史。漆の持つ優れた特性と美に魅せられ、現代における漆の可能性を追求する若林幸恵さん。荒々しい手刳りと、優美な挽き物。漆は耐久性があり、熱の伝わりが和らぐため熱い汁物などを入れても手に持てますし、修理も出来ます。
漆器は決して繊細で扱いにくいものではありませんので、そのような偏見を捨て、ガシガシ漆器を使ってみてください。きっと生活が漆のように艷やかになるでしょう。若林さんの漆器は、中世以降、主に寺院などで使われながら発展してきた漆器の「正史」とはやや離れた場所で展開されています。縄文時代にはほぼ技法的に完成をみていたと言われる漆の技法、まず自然の神秘として人間の前に顕現したその原初的な艶めきを背後に湛えた作品です。
信楽で作陶されている谷穹さんの工房の隣には、お祖父様が蒐集された古信楽の壺がたくさん収蔵された展示室があります。骨董商を営んでいたとはいえ、個人が集めたとは思えないその量と質は驚くべきもので、公のもの含め、古信楽のコレクションとしては国内でも随一ではないでしょうか。そのような優れたコレクションに囲まれて育ったからか、谷さんの古信楽に対する情熱と考察は比類なきものです。
近現代の信楽焼と古信楽は何かが違う。では何が、どのように違うのか。谷穹さんはその違和感に蓋をせず、透徹した眼で観察し、そして実際に窯焚きしながら検証していきます。谷穹さんの作品にあって、なんとなくのフォルム、偶然の窯変というものは、存在しません。谷さんは自身の研究によって、窯変も計算し狙って出せることを体験しているからです。古信楽に関する研究がほとんどされていない状況で、谷穹は独り、古信楽を正しく現代にアップデートする作業を行っているのです。
偶然か、お二人とも〈人の手がつくりだすもの〉を非常に長いタイムスケールにおいて考え、それを実践にフィードバックされています。それは民芸や工芸といった枠では捉えられない、人と自然の、長い年月のなかで育まれてきた美しい関係性そのものです。